冬よりもしんどい? 夏風邪にご用心

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夏の三大感染症「プール熱」「ヘルパンギーナ」「手足口病」について

夏風邪は高熱やのどの痛みがつらく、体力を消耗しやすいといわれます。長引くことも多く、冬の風邪よりもつらく感じることも。夏に感染しやすいウイルスについて、耳鼻咽喉科専門医の石井正則先生に伺いました。

風邪の原因は、ほとんどウイルスによる感染です。その数は200種類以上あるといわれており、ウイルスの多くは寒くて乾燥した環境を好みます。しかし、なかには高温多湿の環境を好むウイルスもあり、それが「夏風邪」の原因になります。ウイルスが引き起こすさまざまな夏風邪について、主な症状や特徴を知っておきましょう。

●パルボウイルスB19

[代表的な感染症]

りんご病(伝染性紅斑)

[主な症状]

両頬がリンゴのように赤くなる紅斑(蝶形紅斑)、体や手足にレース状・網目状の発疹、軽い発熱、倦怠感、頭痛、関節痛(とくに大人)

[特徴]

年によって異なるが春~初夏に流行。5~15歳の小児に多い感染症ですが、大人も感染し、とくに妊婦は胎児水腫や流産のリスクがあるので注意が必要です。
今年(2025年)はとくに流行が懸念されています。すでに大阪府では、1999年以降初めて警戒レベルに達し、東京都や北海道でも増加傾向にあり、厚生労働省が注意を呼びかけています。

[治療法]

ウイルス感染のため抗生物質は効かず、対症療法が中心。発熱や関節痛にはアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤で対応し、かゆみが強い場合は抗ヒスタミン薬が処方されます。
水分補給をして脱水を予防し、体力を回復させることが重要になります。発疹が出た時点で感染力はほぼないため、全身状態が良好であれば登園・登校は可能です。

両頬が赤くなるのが特徴。

●アデノウイルス

[代表的な感染症]

咽頭結膜熱(プール熱)
流行性角結膜炎
咽頭炎(のど風邪)
呼吸器感染症

[主な症状]

のどの強い痛み、高熱、結膜炎(目の充血)、全身のだるさ、下痢など

[特徴]

6~8月に流行し、幼児から子どもの感染が多い。ウイルスのタイプや感染する体の部位によって症状や病名が変わります。
咽頭結膜熱は、塩素濃度の管理が不十分なプールでアデノウイルスが残って集団感染が起こることがあり、「プール熱」という名前が広がりましたが、適切な消毒が行われるようになった現在では、水を介した感染はほぼ報告されていません。最近の傾向としては、夏場の流行期以外でも散発的に通年で感染が見られます。

[治療法]

これらもウイルス感染のため抗生物質は効かず、対症療法が中心です。高熱が続いたり、のどの痛みがひどかったりする場合は、水分が取れずに脱水症状を起こすこともあるので注意が必要です。

●コクサッキーウイルス・エンテロウイルス

[代表的な感染症]

ヘルパンギーナ:主な原因ウイルスはコクサッキーウイルスA群(とくにA4、A5、A6)など
手足口病:主な原因ウイルスはコクサッキーウイルスA16、A6、エンテロウイルス71など

[主な症状]

ヘルパンギーナ:突然の高熱(39~40℃)、のどの奥の水ぶくれ、強いのどの痛み
手足口病:口の中や手のひら、足裏に水疱性の発疹、口内炎、軽度の発熱(37~38℃)

[特徴]

6~8月に流行し、どちらも5歳以下の乳幼児に多い感染症です。両者とも「夏風邪」の代表格で、症状が似ているため見分けが難しいのですが、水疱や発疹の部位、発熱の程度が違います。軽症な疾患ですが、大人が感染すると重症化しやすいことがあります。

[治療法]

特効薬はとくになく、対症療法が中心です。のどの痛みや口内の水疱で飲食がつらくなるので、こまめな水分補給が大切です。

ヘルパンギーナ

手足口病

ヘルパンギーナは高熱が出やすく、口腔内の痛みや発疹が出るのに対し、手足口病は手や足など口以外にも発疹が出る。
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夏風邪のほうが冬より、しんどい!?

夏風邪は冬の風邪よりもしんどいと感じる人が少なくありません。その理由のひとつに、原因となるアデノウイルスやエンテロウイルスが、高熱を引き起こしやすく、しかも熱が長引く傾向があることがあげられます。
さらに、ヘルパンギーナにかかると、のどの強い痛みや口内炎によって、食事や水分がとりにくくなり、体力の消耗につながります。
夏はもともと暑さや湿気で体力が落ちやすく、風邪をひくと回復に時間がかかりやすいので、「冬よりもつらい」と感じるのかもしれません。

また、これらのウイルスは、軽症だと熱が出ず、のどの違和感を覚える程度のこともあります。そのため、風邪と気づかずに無理をしてしまったり、エアコンで体を冷やしすぎたり、脱水気味になったりすることで免疫力が下がり、だるさなどの体調不良が長引いてしまうことも。
日ごろから規則正しい生活と十分な休養を心がけ、手洗いやうがいといった基本的な予防も忘れずに行いましょう。

(2025.07.09掲載)

石井正則(いしい まさのり)先生

JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長
日本耳鼻咽喉科専門医。神経耳科(めまい、耳鳴り、難聴)や自律神経の診察や検査も得意としている。ヨガの公認インストラクターでもありストレス疾患の専門治療施設やヨガスタジオで指導。耳鼻咽喉科心身医学研究会の発起人メンバーであり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙医学審査会委員もつとめる。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など幅広く活躍。

制作協力:NHKエデュケーショナル

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