食べ物をのどに詰まらせたときの応急処置

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12月から1月にかけて急増
高齢者の窒息事故を防ぐには

おせち料理やお雑煮はお正月の楽しみのひとつですが、高齢者の窒息事故による死亡者数は1月に集中するといいます。事故を防ぐために気をつけたいこと、応急手当について五十嵐豊先生に伺いました。

高齢者がのどを詰まらせる原因

高齢になると十分に噛めなくなったり、飲み込む力(嚥下機能)や異物を咳き込んで外に出す神経の反射が低下します。また、唾液の量も少なくなるため、食べ物がのどに詰まりやすくなりがちです。
ですから、高齢者の窒息は食事中によく起き、餅だけでなく、米飯、パン、肉なども詰まらせる原因になります。

●のどに詰まらせやすい食品

【粘り気のある食材】
 餅、ごはん(おかゆ、おにぎりなども含む)、さつまいもなど

【硬く、噛みづらい食材】
 肉、たこ、こんにゃく、ソーセージ、にんじん、りんごなど

窒息(気道閉塞)のサインを見逃さない

食べたものが気管に詰まって呼吸が苦しくなると、両手でのどをつかむ「チョークサイン」をします。ただし、チョークサインを出せずに、食事中に急にうなだれる、顔色が真っ青になる場合もあるので注意しましょう。

窒息が起こっていそうな場合は、まず、できるだけ咳をさせて、のどに詰まった食べ物を吐き出させます。このとき、水は飲ませないこと。咳で吐き出すことができても肺炎となる場合があるので、速やかに医療機関を受診してください。

咳をしても詰まったものが出てこない場合や、咳が出ずに息を吸うときにヒューヒューという音がするなどして息が吸いにくいような場合は、すぐに119番通報をして救急車を呼びます。
救急隊員が到着するまで、次の応急手当や心肺蘇生を行います。

のどを詰まらせたときの応急手当

のどに詰まった異物を取り除く応急手当には「背部叩打法」と「腹部突き上げ法」があります。まず「背部叩打法」を試みて、効果がなければ「腹部突き上げ法」を行なってください。異物が取れるか、意識がなくなるまで続けます。ただし、妊婦や乳児では「腹部突き上げ法」は行わず、「背部叩打法」のみ行います。

乳児の応急手当は「子どもの誤飲や窒息事故を防ぐ」記事参照。

●背部叩打法

まず、手のひらで相手の下あご部分をしっかり支えあごを反らせます。そして、もう一方の手の付け根部分で、相手の肩甲骨と肩甲骨の間を力強く繰り返し叩きます。
※相手が苦しくて座っていたり横になっていたりしても同じように行います。

●腹部突き上げ法

相手を背中側から抱きかかえ、自分の胸を相手の体にしっかりと密着させます。
そして片方の手で握りこぶしを作り、親指を相手のへそとみぞおちの中間付近にあてます。その握りこぶしをもう片方の手で握り、斜め上の方向に引き上げます。
※乳児や妊婦に行ってはいけません。

反応がない場合は心肺蘇生を

ぐったりして呼びかけに反応がなくなった場合や、異物が除去できない場合は、心肺蘇生法の胸骨圧迫を行います。AED(自動体外式除細動器)が近くにある場合は、AEDを使って心肺蘇生を行います。異物が見えたらそれを取り除きますが、見えない場合はやみくもに指を入れて探さず、胸骨圧迫を優先してください。
インターネット上で「掃除機で吸い取る方法」などが散見されますが、推奨されている方法ではないので、背部叩打法と腹部突き上げ法を行なっても異物がとれない、または行うことができないときの最終手段としてください。

餅を食べるときのポイント4つ

高齢者だけでなく、若い人でものどに詰まらせるリスクのある餅。窒息のリスクを減らすには、次のポイントを意識して食べるようにしてください。

●小さく切る
●食べる前に水分をとる
●ゆっくりよく噛んで食べる
●食べるときは姿勢をよくする

なるべくなら家族と一緒のときに食べるようにし、ひとりのときはお餅を食べるのは避けるようにしましょう。

注)4歳以下の小児は、飲み込む力が未発達で、噛む力も十分ではありません。また、食事に集中できず、食べ遊びをすることも少なくないので、窒息死事故も多発しています。幼いお子さんの食事はつねに窒息の危険があると認識し、食べものをのどに詰まらせた場合は、速やかに119番通報をし、適切な応急処置の指示を受けてください。

(2023.12.19掲載)

教えてもらった先生:五十嵐 豊(いがらし ゆたか)先生

日本医科大学付属病院 高度救命救急センター 講師 医学博士。日本救急医学会 救急科専門医。日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医。窒息事故の多い日本から、世界の窒息事故を減らすため、"MOCHI"という学会主導のプロジェクトを行っており、共同代表を務める。

制作協力:NHKエデュケーショナル

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