耳鼻科医から見たアーティストと演奏 第33回

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耳鼻科医の立場から、医学と演奏を探る

今回のゲストはシンガー兼内科医のアン・サリー。アンは、シンガーとして活躍しながら、現役の医師としても働いており、今回の対談は医師同士の対談でもあるという、いつもとやや違う感じとなった。
<音楽之友社刊「音楽の友」2026年1月号掲載>

シンガーとしての悩みを相談するアン(左)。

声の切り替え、喉頭ファイバー

アン

医療機関(内科)に勤務していますので、平日には歌う仕事を入れていません。勤務を終えて家に帰ると、歌の練習もします。勤務中、患者さんとお話する機会が多いので、いっぱい喋ったあとに歌うと、声が出ないときもあります。身体を整えて過ごせるように、いろいろ工夫もしています。トークと歌うときの、喉の使いかたは違いますね。

竹田

おっしゃる通りです。喉の使いかたですね。話すことも喉に負担がかかります。歌の場合は響きなども利用できますので、声帯への負担が多少減る場合もあります。

道下

アン先生はコンサートでは、歌うだけではなくMCもされるそうですね。

アン

私の理想は、1時間40分ぐらいのコンサートのなかで、よい声を保ちながら最後まで走りきれることです。それができている日の条件をあとで振り返り、それをいつもたどればよいのかなと思うのですが、そのときの体調にもよりますよね。

竹田

声帯は、音を作る源です。喉がかさつくときは、声帯に炎症とむくみのようなものも生じていまして、よい状態の声帯ではありません。もう一つは、筋肉で動かしていますので、筋肉の疲労もありますね。普段は声がひっくり返ったりはしないようなところで、ひっくり返ってしまうなど、疲労が重なるとやりづらくなり、調節もうまくいかなくなります。喉頭には内筋といわれる5つの筋肉(内喉頭筋)があり、喉頭を支える外喉頭筋という筋肉もあります。それらもふくめ、非常に複雑なことをやっているのです。

アン

よい声を出せているときの声帯を、自分で見ながら練習することができたら、効率よく練習ができるのかなと。

竹田

喉頭ファイバーを使って見ることができます。たとえば、「喉詰め声」のような声になっている人の状態を見ていただきます。喉頭蓋が倒れていたり、締めつけている状態で仮声帯も張り出していたり、過緊張型の発声のように力が入りすぎていたりすると、「喉詰め声」のような歌声になってしまいます。本来、声帯が伸びて声を出した高音などはきれいに響くのですが、それができてないこともお見せできるのです。

 

補聴器について

アン

患者さんのなかには、お耳の遠いかたもいらっしゃいます。1日の診療を終えると喉が使いものにならないぐらいに疲れてしまいます。

竹田

高齢者のかたで難聴気味の人と接することが多い場合、その人にポータブルな補聴器などを使っていただくとよいかもしれません。私も往診するときに使います。それを使うと、たいていのかたは聞こえると言ってくださいます。小型ですので、持ち運びも便利です。

アン

音量の調節はできますか。

竹田

できます。患者さんに対して、ご家族が大きな声でお話されている場面も見られます。患者さんに補聴器を使っていただくと、自分の声を大きくせずに済むかもしれません。まず、患者さんに補聴器を通した音に慣れてもらうことが必要です。補聴器を着けると、聞こえかたが違います。また、補聴器は、声だけではなくいろんな音を拾ってしまうこともあります。その音がノイズのように聞こえるのを嫌がる人も多いのです。それから、補聴器は高額ですので、お店などでフィッティングするのがよいと思います。

アン

よく聞こえるようになると、コミュニケーションもしっかりと取れますね。

竹田

難聴は、認知症の進む要因の一つになっています。音や声が聞きとりにくくなると、コミュニケーションも取れなくなりますので、音を入れてあげることが大事です。

コンサートでよい声を保ちながら、最後まで走りきれることが理想です (アン)
のどの筋肉の疲労が重なるとやりづらくなり、調節もうまくいかなくなります (竹田)

喉頭ファイバーで見たのどの画像を見る
アン(中央)は医師としての顔に戻る

舞台や控室……
アレルギーと薬、漢方薬

アン

空気が悪い控室や舞台もあり、あらゆる環境のなかでそれに対応していかなければいけません。

竹田

アレルギーをお持ちですか。

アン

花粉症とハウスダストがあります。あまり使用されていないようなエアコンを使ったとき、すぐに痒くなり、咳も出ました。本番も、ガラガラした声になってしまいました。

竹田

アレルギーの場合、前もって少し薬を飲んでおきます。副作用の少ない薬がよいと思います。

アン

多くの医師は、ビラスチンを飲んでいますね。眠くならないので、仕事しながら飲んでもボーっとしませんし、パフォーマンスも落ちません。

竹田

非鎮静性の、副作用の少ない薬ですね。私は漢方薬も使います。

アン

小青竜湯などは酸っぱい味で、鼻の通りがよくなりますよね。

竹田

すっきりするので、鼻が詰まりがちなときなどに使います。麻黄という成分が入っていて、頭も冴えるのです。

道下

普段から漢方薬を服用しているのですか。

アン

はっきりとした具合の悪さではなく、全体を整えたいときにとても重宝するのは漢方薬。体調に応じて飲み分けています。私のような更年期の女性のかたには、漢方薬もよいと思います。西洋医学は、その症状に対してピンポイントに作用することが多いと思いますが、漢方の場合はわりと広く、そのかたの身体に合っていれば、いくつかの具合の悪さを一度によくしてくれたり、整えたりしてくれる場合もあります。

竹田

身体のバランスを整えていくような考えかたですね。さまざまな漢方薬がありますけれど、その人に合えば、わりとよく効くと思います。

竹田先生とアン先生もおすすめ!
喉頭のトレーニング

竹田

太いストローをくわえ、「ウー」と声を出します。慣れてきましたら、低い声や高い声などいろいろ変えてみてください。喉のリラクゼーションにもよいですし、声帯に対して抵抗が少しかかるので、喉頭のトレーニングになります。音声を専門とされている先生がたもすすめている方法です。抵抗感をさらに増したい場合、水の入ったコップ、くわえたストローの先を入れ、先ほどやったように声を出してブクブクさせます。

「この補聴器がよいですよ」と医師アン先生(右)に説明する竹田先生(左)


イラストで知る発声ビジュアルガイド
セオドア・ダイモン 著
竹田数章 監訳
篠原玲子 訳
【定価】2750円(本体2500円)


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竹田数章/道下京子/堀ちえみ/堀江美都子/三宅由佳莉/山田和樹/上杉春雄/小川典子/他
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プロフィール

アン・サリー

2001年の歌手デビュー以来、医師としての活動と並行し全国のコンサートホールや音楽フェスティヴァル、主要ライブハウス等で公演を重ねる。多数のアルバムを発表の他CMや映画の主題歌等でも起用され、日本を代表する音楽家とも数多く共演。その繊細かつ情感豊かな歌声と、ジャンルの垣根を超えた音楽性によって、国内外の幅広いリスナーを魅了し続けている。

■公演情報
宗像ユリックス「親子でJAZZ LIVE!」〈日時・会場〉2026年2月22日10時30分・宗像ユリックスハーモニーホール(福岡県宗像市久原400)〈出演〉ブラック ボトム ブラス バンド(ブラスバンド)、アン・サリー(vo)、小林 創(p)〈曲目〉《のびろのびろだいすきな木》、《はなのような人》、《おかあさんの唄》、《さんぽ》、《聖者の行進》、他〈問合せ〉宗像ユリックス事業部 0940-37-1483

竹田数章(たけだ かずあき)

1959年生まれ、京都府出身。仙川耳鼻咽喉科院長。日本医科大学大学院博士課程卒業。医学博士。現在仙川耳鼻咽喉科院長。桐朋学園・洗足学園非常勤講師。音声生理学や臨床音声学の講義を行う。文化庁能楽養成会(森田流笛方)研修終了。趣味は音楽、スポーツ、観劇、フルート、書道。監訳書に『ヴォイス・ケア・ブック 声を使うすべての人のために』(ガーフィールド・デイヴィス&アンソニー・ヤーン著、音楽之友社刊)、『発声ビジュアルガイド』(セオドア・ダイモン著、音楽之友社刊)。ONTOMO MOOK『人生をより豊かにする音楽と医学-のど、脳、身体の機能から探る』(音楽之友社刊)

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