
冬の感染症の季節到来 「頑固な咳と高熱が長く続いたら」要注意
- コラム
風邪やインフルエンザ症状と似ているマイコプラズマ肺炎とは

しつこい咳が特徴のマイコプラズマ肺炎は、この夏から感染者が急増している疾患です。一年を通してかかりますが、主に秋から冬にかけて増えるというマイコプラズマ肺炎について、皿谷健先生にお話を聞きました。
マイコプラズマ肺炎(マイコプラズマ感染症とも)は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌に感染して起こる肺炎です。子どもや若い人がかかる肺炎の原因として、比較的多いもののひとつです。
マイコプラズマ肺炎では、発熱や倦怠感、頭痛、のどの痛みなど風邪に似た症状が現れます。なかでも頑固な咳が特徴で、熱が治まったあとも乾いた咳が長く続きます。とくに夜中から明け方にかけて激しく咳き込むことがあり、寝苦しさを訴える患者さんも少なくありません。
初期の症状で、風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などと見分けるのが難しいところです。通常のウイルス感染は2日程度で高熱は治りますが、3日以上続く場合は、特にインフルエンザやマイコプラズマ肺炎を疑って早めに受診しましょう。
また、ちょっとした風邪だと思っても、たんの出ない頑固な乾いた咳が1週間以上続く場合は、医療機関を受診しましょう。肺炎マイコプラズマ(細菌)の感染者の約9割が風邪のような症状のみで自然に回復しますが、1割は肺炎になり、そのうち数%が重症化して低酸素血症を起こし、入院治療が必要になることもあります。

初期の症状では見分けるのが難しい。特徴は頑固な咳。
マイコプラズマ肺炎の治療
肺炎マイコプラズマという細菌は、他の細菌と異なり細胞壁をもたず、いろいろな形に変形します。そのため、他の肺炎の治療に使われる細胞壁の合成を妨げるタイプのペニシリン系やセフィム系の抗菌薬が効きません。
マイコプラズマ肺炎の治療には、細胞の中に直接作用するマクロライド系抗菌薬が用いられます。症状が治まっても、医師の指示に従って、処方された日数分を最後まで飲みきるようにしましょう。
マクロライド系の抗菌薬が効かない耐性菌もいるため、2、3日ほど服用しても高熱が続くなど症状が改善しない場合は、再度医療機関を受診して相談してください。その場合は、ニューキノロン系やテトラサイクイリン系抗菌薬(8歳以上)が処方されます。
子どもが感染しやすい感染症
マイコプラズマ肺炎は、患者さんのおよそ8割が14歳以下という学童期の子どもに多い感染症です。潜伏期が2〜3週間と比較的長いため、いつ感染したかはわかりづらいでしょう。一方、インフルエンザは潜伏期が2、3日と短く、家庭内や学校、職場で高熱やのどの痛み、筋肉痛、関節痛などの症状がある人と接触したといったエピソードが明らかな場合が多いのが特徴です。マイコプラズマ肺炎は、風邪と同じように、発症した人の咳やつばを吸い込む飛沫感染や、咳のしぶきがついた手で鼻や口を触ったりする接触感染で発症します。感染力は風邪やインフルエンザほど強くはありませんが、濃厚接触する学校や家庭での感染はよく見られます。家の中はよく換気をして、感染者が幼児であっても2歳以上で息苦しさや不快感がなければ、看病する家族とともにマスクをし、看病時は常に手洗いと加湿を忘れずに行いましょう。冬に向かって空気が乾燥し、気温が低くなっていくこの時期は、マイコプラズマ肺炎に限らず、インフルエンザやRSウイルス、ノロウイルスなども流行します。日頃から感染予防を心がけましょう。

うがいや手洗いをこまめにして、感染予防を。

皿谷健(さらや たけし)先生
杏林大学 呼吸器内科 教授
日本マイコプラズマ学会理事、日本感染症学会感染症専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本内科学会総合内科専門医
聴診を含めた身体所見、胸水診断や間質性肺炎、マイコプラズマ肺炎の研究を行う。漢方診療も行っている。
制作協力:NHKエデュケーショナル